2023年05月30日
2023年 5月~6月号 辻蕎麦便り
皐月。
「1日の気温格差が大きいので体調管理に気を付けてください」。
テレビやラジオの天気予報の中で、気象予報士が呼び掛けるこうした内容の注意を耳にすることが実に多くなりました。
5月といえば1年の中でもっとも穏やかで過ごしやすい季節と思っています。
いや正確に言えば「思っていました」かな。
「風薫る五月」がキャッチフレーズになるくらい爽やかなはずなのに、ここ北国の山形で「明日は猛暑日に…」などという予報が流れてくるのですから。
「爽やか」と「猛暑日」はどう考えてもそぐわないでしょう。
実際は最高気温が34.6℃で、猛暑日まではあと一歩及びませんでしたが、それにしてもどう考えたって5月の気温ではありません。
おまけに最低、最高の気温差が20℃以上という日も結構あり、たった24時間の間に早春から真夏までへの急変にどう対応すれば良いのさ、とぼやきたくなります。
体調維持も容易でありません。
そんな暑い1日、高台から山形盆地を眺めたくなり林道まがいの道をドライブしてきました。
山形盆地は南北に約40㌔、東西に10㌔~20㌔あり、田園が広がるなかに街や集落が点在しています。
5月の盆地の光景は、伝説の「藻が湖」に一番近いのではないでしょうか。
田植えの準備のために一斉に水を張られて果てしなく広がる水田はまるで湖のよう。
大昔(何年前とは問わないでください)、最上川は村山市の碁点で堰き止められており、盆地が巨大な湖だったといわれています。
その名残りが地名として伝えられ、東側の際が東根、現在の東根市、西の際が西根、現在の寒河江市西根だというのです。
今ではちょっと場所を思い出せませんが、東根市の山裾には、「荷渡し地蔵」といったお地蔵さんがありました。
科学的には地殻変動によって村山市碁点の堰き止めが解消され、最上川となって水が流れ出し、山形盆地を形成したようです。
人々が住む以前の事象なのでしょうが、湖は一気に消滅したのではなく、徐々に狭まっていき人間が生活を始めたころにも残っていたのでは。純白に輝く周囲の高い山並みに囲まれ、青空を映し出す広大な水田をぼんやり見ていると、古代の人々が木船を力強く漕いで行き来する姿が浮かんできます。
どんな風が彼らの頬を撫でていたのでしょうね。
もっとも「現代の湖」もめっきり減って、新たな白い波を湧き立たせています。
サクランボやリンゴなどの花で、桃などのピンクも混じり咲き誇るさまは桃源郷を彷彿させています。
湖が狭まって、桃源郷が広がるのは目の保養には良いのですが。
その裏にはいろいろな事情があるのでしょうね。
2023年04月30日
2023年 4月~5月号 辻蕎麦便り
卯月
さまざまな季節が入り混じる4月。
菜の花や芝桜などの花々が咲き乱れる一方、雪の壁を縫うように走る山岳観光道路の開通が同じ日のニュースになったりします。
本来ならウキウキ、ワクワクする時期のはずが、ことしはなぜか気が急いて仕方がありません。
原因は桜の開花。
山形の開花宣言は例年4月中旬です。
それがなんと3月31日に宣言が出されました。
山形地方気象台が観測を始めたのは1953年(昭和28年)。
半世紀を超える歴史の中で3月は初めてで、昨年より11日早いということです。
記録的な早さだったわけですが、桜の開花は野菜作りをしている人たちの作業の目安にもなっています。
もっとも知られているのが、ジャガイモの植え付け。
比較的冷涼な気候を好むジャガイモは、桜の開花期に種芋を植え、酷暑が訪れる前に収穫します。
その他にも、いろいろな野菜の種を蒔くゴーサインでもあります。
しかし本当にスタートしていいの、と「?」マークが浮き沈みします。
昨年は4月中旬に作業を始めたのは良いが、30日に雪が降ったのですから。
ようやく地表に顔を出した芽は寒さにそれほど強くありません。
まして強力な霜などに襲われれば極めて強いダメージを受け、せっかくの苦労が水の泡に帰してしまいます。
模様を見ていると、最高気温が20℃以上の日が3、4日続いたあとに、いきなり10℃前後まで下がってくるというのを繰り返しました。
その上最低気温が0℃近い日も。
霜注意報も頻繁にでます。
本格的な農家ならそれ相応の設備もあるのでしょうが、趣味に毛が生えた程度ではそこまで手が回りません。
作業という車のアクセルを踏むべきか、ブレーキを踏むべきか実に悩ましい日々が続きました。
シーズンになれば駐車場の半分近くに野菜の苗が並ぶホームセンターを時折幾つか巡りましたが、中旬になってもほとんど動きがありませんでした。
やはりブレーキが正解か。
それにしてもこの暖かさならアクセルなのでは、と迷いの幅は広がるばかり。
「季節の移ろい」という言葉からは情緒豊かでどこかゆったりしたイメージを受けますが、昨今の「移ろい」はまるで録画の早送りのようです。
人間も気温の急激な変化についていくのが大変ですが、植物の世界にも戸惑いが。
旬の味を楽しもうとわが菜園の片隅にウドやコゴミ、アケビなどの山菜を植えてあります。
ほんの箸休め程度の量しか収穫できないささやかなものです。
いつもなら5月の大型連休の後に顔を出すワラビが今月中旬に2本出て来ました。
ところが、10㌢ほど伸びたところでそのままストップ。
仲間も顔を出しません。
似たようなことはアスパラにも。
偵察員のようなのがいるんですかね。
「やはり、早すぎたかも。もう少し待って」と伝えているのかもしれません。
新型コロナにかかわるさまざまな規制が解除され、各地の祭りなど多くの催し類が復活しました。
人々の交流も活発になり、急速に以前の生活が戻ってきているようです。
これは嬉しい限りですが、気象は異常さを増すばかりのように思えて仕方がありません。
いつかは四季のはっきりした穏やかな日本に戻ってほしいものです。
2023年03月29日
2023年 3月~4月号 辻蕎麦便り
弥生。
ことしは雪が2月下旬に早々に消えたので、温かくなる日も遠からずと期待を膨らませました。
しかしそうはいきません。
気温はなかなか上がらず、天はのらりくらりと春の訪れを拒んでいるのではないかと恨み節を言いたくなるような1カ月間でした。
朝、目を覚ましても、外が薄暗いうえに肌を刺すような寒さでは布団から抜け出すのも一大決心が必要です。
「毎年よ 彼岸の入りに 寒いのは」。
「いつまでも寒いね」と語りかけた俳人正岡子規に、お母さんが返した言葉を作品にしたといわれています。
3月中旬になるとこの句が自然に浮かんできます。
この時期、青空のなかに真っ白に染め上げられた月山や朝日連峰がそびえているのを目にすると、じっとしていられない、浮き立つような気分になります。
空の青さも、山の白さも真冬のそれとはどこか色が違うのです。
それが“行動”のスイッチを押すのでしょうか。
わが菜園にある梅の老木も陽だまりになっているところから一輪、また一輪と可憐な花びらが「うーん」といいながら背伸びしてきます。
足元では、雪の下だろうと氷点下だろうとものともせずに成長し続けた雑草が前後左右に旺盛に勢力圏を拡大しています。
ことしもいよいよ雑草との戦いの始まりです。
山形の桜の話は4月に書くものと思っていたのですが、どうやら近い将来はそうでなくなりそうな雲行きに。
インターネットで今年の開花予想を見ていたら、なんと開花日が4月1日、満開日は4月5日とありました。
山形市内の花見といえば4月中旬です。
年によってはゴールデンウイークに満開になり、しかも花びらに雪が舞い降りるといった光景も。
雪国では時としてそういうこともあるのです。
それが4月1日に開花とは。
平年より2週間近く早いそうです。
小中学校の入学式より前に開花するのは想像できません。
「ホントかいな」と思いつつ、山形市の桜の名所霞城公園に足を運びました。
満開の紅白の梅に混じってエドヒガンが五分咲きくらいになっていました。
これなら4月早々に開花し、1500本に上るソメイヨシノがお堀の水面をピンクに染める日も間もなくでしょう。
コロナによる規制が解除され、ことしは以前のような花見の賑わいが戻ってくるということで嬉しさもひとしおですが、その一方で異常気象がここまできたのかと考えさせられると怖さもあります。
桜前線は暖かい九州から始まり、次第に北上しますが、近年はそうでなくなっています。
九州や四国、中国より東京の方が早いのです。
「休眠打破」といって、桜が花を咲かせるには一定期間相応の低温にさらされることによる樹木の目覚めが必要です。
ところが地球温暖化の影響で九州などでは「休眠打破」がおきにくくなっているというのです。
気温がしっかり下がらないので、咲いて良いものやら悪いものやらといった寝ぼけ状態になるのだとか。
こうした状態が続くと、南の方では桜の名所や桜花爛漫の光景が姿を消す可能性もあるといわれています。
日本の大切な原風景が消失していくことだけは勘弁してほしいものです。