2025年01月31日
2025年 1月~2月号 辻蕎麦便り
睦月。
1日中冷凍庫のような寒気の中に閉じ込められ、深々と降り続く雪。
明け方の暗闇の中、チェーンの音を響かせて除雪車が行き交う。
数年前までの大寒の山形といえば、こんな感じではなかったでしょうか。
それが一転、山形市街地に関していえば「雪国山形」の「雪国」を返上してもいいのではないかとさえ思えてきます。
昨年の1月は2020年以来の少なさでした。
最高に積もったのが、25日の20㌢で、月の半分は観測値なしだったのですから。
今年は昨年より若干多いものの、最高が11日の30㌢。
9日に26㌢降った雪に10日、11日に降った分が上積みされました。
その雪がしばらく残っていたので、記録上は雪が積もっている日が多いように見えますが、市街地ではあっという間に姿を消し、市民が目にするのは、屋根から落ちて積み上がった雪や、大規模駐車場で除雪した雪の山くらいでしょう。
最高気温がマイナスになる真冬日がないのも消雪の後押しをしているようです。
市街地周辺の田んぼでは切り株が見えてきています。
20日過ぎに郊外を車で走っていたら、田んぼの中で何やら妙な動きが。
一瞬、風で雪が舞い上がっているのかと思いましたが、目を凝らしたら白鳥の群れが餌を啄んでいたのです。
雪で一面が閉ざされていた数年前の1月では全く想像できなかった光景です。
10羽強と5、6羽の2グループで、黒っぽい羽根の幼鳥も混じっていました。
この様子なら北帰行もぐんと早まるのかもしれません。
年齢を重ねるごとに体力が衰え、除排雪作業をきついと感じるようになった身にとって、小雪の冬は有り難い限りです。
しかしこれが地球温暖化がもたらす異常気象によるものであれば、手放しで喜ぶわけにはいきません。
昨年秋以来の野菜の高騰が年を越しても続いています。
大きな要因は昨年夏から秋にかけての高温でした。
家庭の食卓を直撃しているこの問題は深刻です。
昨年の初夏の高温では山形県を代表するサクランボも大変な被害に見舞われました。
気温が高いので熟成のスピードが速まり、適期収穫が思うようにできなかったのです。
天童市で促成栽培されたサクランボ佐藤錦の初競りが今月5日に東京の大田市場と天童市青果物市場で行われました。
500㌘入り1箱にそれぞれ150万円の値がついたということです。
1箱に68粒入っており、1粒2万2千円ほどに。
こんな高級な1粒がいったい誰の口に、といったことはともかく、この値段は資材高騰や気象災害で厳しい状況にある生産地を応援するためにつけられたのだとか。
こうした気持ちがぜひ天に届き、穏やかな1年になってほしいと願っております。
2024年12月31日
2024年 12月号 辻蕎麦便り
師走。
「野菜が本当に高い。涼しくなったら、少しは安くなるのではと思っていたのに、とカミさんがぼやいていた。自分の畑で野菜を作っているなんて、うらやましい限りだ」。
首都圏に住む友人と電話で互いに近況報告していた中の一コマです。
いやいや野菜が高いのは都会だけではありません。生産地でも同じです。
たまにスーパー巡りをすると、いつもの2倍くらいに跳ね上がっている値札をみて目を見張ります。
先日、農林水産省が「野菜の生育状況及び価格見通し(令和7年1月)について」を発表しました。
それによりますと、「夏秋期の高温や12月の低温等の影響により、出荷数量が平年を下回り、価格が平年を上回って推移する品目がある一方、果菜類などで前月から徐々に落ち着くもの、一定程度の範囲に収まる品目もある見込みです」とありますが、その内容に思わずうなりました。
大根、ニンジン、白菜、キャベツ、ホウレンソウ、ネギ、レタス、キュウリ、ナス、トマト、ピーマン、馬鈴薯、里芋、タマネギ、ブロッコリーの主要野菜15品目ごとに生育、出荷、価格の見通しが掲載されていますが、平年(直近5年間)並みでというのは里芋だけで、残りの14品目すべて値上がりを見込んでいます。
食卓に欠かせない野菜類のほぼすべてが高値では、家計に与える影響は少なくありません。
今年はわが菜園でも多くの野菜が高温や少雨で様々な影響を受けました。
悔しさを通り越して思わず笑ってしまったのは春に種をまいた大根。
きれいに発芽し楽しみにしていたのですが、成長期にほとんど雨が降りませんでした。
どうしていつまでも太らないんだ、と気づいたときには完全に手遅れ。
水分がほとんどないゴボウのような大根が出来上がっていました。
とても食べられる状態ではありません。こんな経験は初めてで、野菜栽培には水分が必要という初歩中の初歩を改めて学びました。
白菜、キャベツ、レタスという結球ものもうちそろって落第。
まさに例年通り、例年のごとく種をまき、苗を植え付けたのですが、なかなか成長の兆しが見えません。
ようやく結球が始まったと思ったら、ほどなく止まってしまいました。
これらの野菜は生育や結球に適した気温帯があります。
今年は10月中旬まで夏日があり、暑さが続きました。
そして秋を感じる暇もなく初冬へ。
これじゃ結球している時間がありません。
結球しても小さかったり、球が緩かったりで、自家消費なら問題ありませんが、商品にはならないでしょう。
わが菜園では従来通り黒マルチを使用していたので、より暑かったのかもしれません。
きちんと対応しなかったのが不出来の一因なので、天災と人災が相半ばした感じです。
気象庁のまとめでは、今年1月から11月までの全国の平均気温は平年より1.64℃も高かったとか。
これまで最も高かった昨年の1.29℃を大きく上回り、統計を開始した1898年以降最も高い数字で、いかに厳しい暑さだったかが分かります。
人災の部分は創意工夫で改善できそうですが、天災の部分はそう簡単にはいきません。
専業農家の方々の苦労がしのばれます。
来年は四季をしっかり感じられる気候であってほしいと心から願っております。
2024年11月29日
2024年 11月~12月号 辻蕎麦便り
霜月。
酒田市の山居倉庫の西側にあるケヤキに衰えがみられ、樹勢回復の手当てを始めたというニュースを目にしました。
山居倉庫といえば米どころ庄内のシンボル。
もっともコメの保管倉庫としての役割は2022年に約130年の歴史の幕を閉じていますが。
ケヤキ並木と明治期に建てられた倉庫の取り合わせは実に風情があり、四季折々にいろいろな表情をみせてくれます。
吉永小百合さん出演のJR東日本のCMで記憶している人も多いのではないでしょうか。
1983年に放映された朝ドラ「おしん」の舞台として一気に有名になりました。
「おしん」の人気が高まるにつれ、観光客も急増。
訪れた人々が歩きやすいようにと、6年後に並木と倉庫の間に石畳を敷いたのですが、これがケヤキの巨木の根を痛める要因になったようです。
今回は幅約2㍍、長さ約170㍍ある石畳のうち約30㍍分を撤去。
土が固くなり過ぎた根の周辺の土を掘り返し、土壌改良を施しながら様子を見るということです。
晩秋の酒田特有の強風にあおられ褐色の枯れ葉が舞い上がる中、石畳を歩いたことを思い出します。
来春には生命力あふれる姿をぜひ取り戻してほしいものです。
果樹や庭木を剪定して出る枝などを焼却するため数年前から菜園で簡易ストーブを使っています。
気温が高めとはいえ、やはり11月。
太陽が雲にさえぎられると途端に肌寒さが増します。
こうなるとストーブの出番。
火があるのとないのでは、こうも違うものかとその有難みを感じながら、やや太めの薪を入れて野菜作りをした畝の後片付けに向かいます。
それにしても不思議ですね。
なぜかストーブの中で薪が燃える炎をじっと見ていると、気持ちがゆったりとしてきます。
もっとも同じ火でもガスではなかなかそうはいきません。
ヒトと他の動物の違いに火を使うというのがありますが、薪が燃え上がる炎に魅入られるのも人類の歴史と何か関係があるのでしょうか。
今の時期の楽しみは焼き芋。
ここ数年、降雪前に何回か焼き芋にできるだけのサツマイモを作っています。
収穫後、追熟し甘みが増してきたころを見計らい、アルミホイルに包んでストーブの中へ。
20~30分すると、実にこうばしい香りが漂ってきます。
葉が枯れ落ち真っ赤な実をつけた柿の木や遠くの茶系統に染まった山並みをながめ、フーフーいいながら頬張る熱々の焼き芋。
まさに秋そのものを味わっている気分です。
首都圏の友人にメールで写真を送ったら、「自分の畑で焼き芋なんて、夢のまた夢。なんて贅沢な」。
以前はほとんど口にしなかった焼き芋。
自分で栽培し、自分で焼くようになってから、この季節の訪れを待ちわびるようになりました。
年々短くなる秋。
温暖化がこれ以上進み消滅するなんてことになりませんように。