2020年07月31日

2020年7月~8月号 辻蕎麦便り






 文月。

「これをお願いします」。
注文を取りに来たお店の人に1枚の紙を手渡されました。
A4版の用紙に、住所、氏名、年齢、男女、電話番号、同行者人数を記入するようになっています。
こうしたやり取りがあると聞いてはいたものの、一瞬戸惑いを覚えます。
新型コロナウイルス感染対策の一環なのだとか。
説明文によりますと、万一、この店関連で感染者が確認された時に、早急に連絡できるようにとの事です。

ここはこの集落で行き止まりという県内の山里の蕎麦屋さん。
古民家を利用し、敷地の入り口周辺に数本ある「蕎麦」の旗で、ようやくお店と分かるようなところです。
4連休中とはいえ、時間をちょっと外したのでそれほど込み合っているとは思わなかったのですが、10数台分の駐車スペースは満杯で、しばし待つことに。車のナンバーを見たら「山形」はわが1台だけで、残りはすべて県外。
しかも首都圏や中京圏のものが目立つ。
幹線道路からこんなに離れた地域なのに、さすがインターネット時代ですね。
一昔前なら、まさに知る人ぞ知るお店だったのですが・・

もちろん個人情報を秘匿しなければならないような身ではないので、お蕎麦が来る前に、出された自慢の漬物を味わいながら空欄を埋めました。
長年にわたり県内はもとより全国各地の蕎麦屋さんを訪れましたが、身元を明らかにして食事をしたのは初めての体験です。
人生、本当にいろいろあるものですね。
お店を出て再び周囲の山々を見渡しながら運転し、ここで新型コロナウイルスの心配をしなければならない、こんな似合わないものはないと思わざるをえませんでした。


 「大丈夫ですか」「相当にひどいようですね、十分気を付けてください」。
7月28日夜から29日にかけて心配した全国の友人知人から電話が相次ぎました。
停滞する梅雨前線や低気圧の影響で県内各地が豪雨に見舞われ、県内を縦断する最上川をはじめその支流が各地で氾濫しました。
広範囲に避難勧告や避難指示が出され、スマホからは不安をあおるようなけたたましい音とともに行政の緊急情報が流れてくる。

 大変なことになっているとの予測はつきましたが、7月29日朝にテレビの中継で氾濫した現場が次々に映し出され、言葉を失いました。
見覚えのある景色がことごとく姿、形を変えています。
人でも土地でも、認知度によって発生したニュースに対する衝撃度が違うと言われますが、まさにその通りです。
今回、被災された方々に対し衷心よりお見舞い申し上げます。
併せて1日も早くいつもの生活に戻れるようにと願ってやみません。






posted by 辻蕎麦(つじそば) at 13:09| Comment(0) | 辻蕎麦便り | 更新情報をチェックする

2020年06月29日

2020年6月~7月号 辻蕎麦便り







 水無月。

 「この畑で日本一の芋煮会で使用するサトイモを育てています」。
山形市落合にある山形市総合スポーツセンター入り口の道路を挟んで反対側にこんな看板が立っています。

 市街地を貫流する馬見ヶ崎川。
秋になれば河原の石を組み合わせたかまどが至る所に造られ、名物の芋煮をつくる煙が揺らめきます。
このメーンイベントが9月に行われる日本一の芋煮会。
「直径6.5mの大鍋には里芋3トン、牛肉1.2トン、こんにゃく3,500枚、ねぎ3,500本、味付け醤油700リットル、隠し味に日本酒50升、砂糖200kg、山形の水6トンを入れ、6トンの薪(ナラ材)で煮炊きします。まさに美味しさもスケールも日本一です」
と実行委員会のホームページにあります。
毎年テレビの全国ニュースで流れるので、ご覧になった方も多いのではないでしょうか。
もっともテレビでは直径6.5mのド迫力を感じるのは無理かもしれません。
今年は9月20日の日曜日に開催される予定でしたが、6月12日にその中止が発表されました。
冒頭の看板に書き込まれていた開催日も消されました。
原因は当然ながら新型コロナウイルスの影響によるものです。
こういう状況だから仕方がないと思う反面、関係者の気持ちを推し量るとやるせなくなります。
平成元年、1989年にスタートし今年で32回目だったのですが、中止は初めてです。
山形の人たちにとっては夏が終わり、食の秋が訪れたことを知らせるイベントでもあります。
スポーツセンター向かいの約20㌃の畑には、4000株のサトイモが植えられています。
例年なら地元の子供たちが実行委員会のメンバーやボランティアとにぎやかに植え付け作業を行いますが、ことしは大人だけでやっていました。
今はひと雨ごとに葉が大きくなってきていますが、こちらの見る目がそうなのかどこか寂し気に映ります。
全国で多くのイベントが次々と中止されていますが、こんなことは今回限りにしてほしいと願うのが関係者の等しい気持ちでしょう。
とにかく残念でなりません。

 全国一の生産量を誇るサクランボの収穫は佐藤錦を終え紅秀峰に移っています。
先月号でも紹介しましたが、新型コロナウイルスの影響で人手不足に陥り、収穫作業に支障をきたすのではないかと懸念されていました。
JR東日本の社員や県庁の職員などがボランティアで支援。
全国に向けて出荷作業に追われています。
サクランボシーズンもあと10日余り。
各農家が滞りなく作業を進められるようと念じております。





posted by 辻蕎麦(つじそば) at 18:22| Comment(0) | 辻蕎麦便り | 更新情報をチェックする

2020年05月30日

2020年5月~6月号 辻蕎麦便り






 皐月。

ことしもサクランボの季節がやってきました。
青空の下でルビー色に輝くサクランボがたわわに実り、園地を吹き抜ける風に揺れる姿は爽やかそのものです。
北国に初夏の訪れを実感させてくれる象徴的光景です。

 今月27日に調査が行われたことしのサクランボ作柄見通しが発表されました。
今月上旬の開花期に低温や降雨があったため園地や樹木によってややばらつきがあるようです。
着果数は平年よりわずかに少なく、作柄は平年比94%の「やや少ない」となっています。
最も果実肥大は良好で、品質の良いサクランボが期待できるということです。

 真冬の技術研修会や寒風の中での剪定作業、それに雨による裂果防止のための巨大なビニールテントのセッテング、病害虫の防除作業、摘果と1年中懸命に努力を続けているサクランボ農家。
暖冬で雪がほとんどなかった今年の冬の気候が果樹等に悪影響を及ぼすのではないかと心配されていましたが、作柄的にはそう大きな問題はなさそうで、ほっとしていることでしょう。
東根、天童、寒河江など主要産地では、お客さんが自分でサクランボの木から直接もぎとって食べられる観光果樹園が数多くあります。
6月に入ると、県内外から大型観光バスやマイカーで大勢の観光客が訪れ、初夏の味覚を心行くまで楽しんでいます。
しかし今年は新型コロナウイルスの感染拡大を懸念し、多くの観光果樹園が休園することになりました。
間もなく歓声が飛び交い、笑顔でサクランボをほおばる光景が見られる。
それを楽しみに作業を続けてきた関係者の心境を思うと忍びないものがあります。

 観光果樹園を休園するわけですから、これらのサクランボを収穫、箱詰めして出荷しなければなりません。
これらはすべて人手が必要で、近年は出荷専門の農家でも労力確保に頭を悩ましています。
それに観光果樹園分がプラスされるわけですから、なかなか大変な状況になりそうですが、この難局をなんとか乗り切ってほしいものです。

 わが園地で昨年収穫したジャガイモの中でやや小ぶりなものを種芋にしようと残しました。
例年なら4月中旬に植え付けますが、雨続きで土がべとつき作業は先延ばしに。
気温の上昇とともにわずかに出ていた芽が一気に伸び出し、10㌢から15㌢くらいまでになり、芽の下のほうには根らしきものも次々に発生。
種芋は次第に痩せてくるので長くなった芽を欠き、根らしきものが出ているのだからと土に挿してみました。
これが活着し、いまでは立派な葉を繁らせています。
こんなバカなことは、農家なら絶対にやらないでしょう。
果たしてどうなることやら。
これで新ジャガが味わえるならうれしい限りですが。
当然のことながら種芋もきちんと植え付けてあります。





posted by 辻蕎麦(つじそば) at 14:03| Comment(0) | 辻蕎麦便り | 更新情報をチェックする